私は今、理事長兼院長として『米倉病院』の頂点に立っている。
だが、その座に辿りつく為の第一歩となった過去の政略結婚が、現在の私に大きな悩みをもたらしていた。
自分の意向を汲んでくれる人物に権力を譲り渡すため、私が考えた後継者候補には、好ましからぬ男の影が付きまとっている。
最上雪花は、公私に渡って私を尊敬しており、次世代スタッフを率いる医師としての力量にも十分期待ができる女性だ。
それなのに、その夫たる人物は、私のことを敵視しており、私にとっても「自分の後継者候補に手をつけた」不快な存在だった。
それならば、と、相応しい人格と能力の持ち主を愛娘の婿に迎えて、後継者の座に据えることも考えていた。
ところが、最近になって、その大事な愛娘に近づこうとする不届きな男が現れた。
『おとうさん』だと? いつそんな呼び方をお前に許した!!
このままでは、他の誰よりも自分の後を継がせたくない男達が、いずれ生まれ来る『孫』の父親になってしまうかも知れない。
そんなことは認めない、許さない! 孫に受け継がれるべきは、私自身の最も濃い血でなくてはならない。
後継者の地位については譲歩できても、あのような男達の血が孫に受け継がれることだけは認めぬ!
では、どうすれば?
彼女たちがあの不愉快な男どもの子を孕む――そのような悲劇を避けるには、どうすればよい?
簡単なことだ。あの男どもより先に、私が彼女達を孕ませてしまえばよい。
私と彼女達の間に生まれる子供は、最も濃く私の血を受け継いでくれる。
そうなれば、あの男どもが形式的に『父親』を名乗るくらいは、許してやってもいいだろう。